A TRANSLATED VERSION TO JAPANESE: TEMPOROMANDIBULAR DISORDERS By KOYANO K IN 2009
以下の文章は2009年に The International Journal of Prosthodonticsに掲載された論文である。個人的に、またスタッフ学習に使用しているがその内容は、簡潔かつ論理的で広く歯科医師、医師、医療関係者に読んでいただきたいと考え公開することとした。また、浅学故に、訳文中に至らない点 が多々あると思いますが、皆様に御指摘いただければ幸いです。
Temporomandibular Disorders (顎関節症)Author: Kiyoshi Koyano, DDS, PhD
The International Journal of Prosthodontics 2009;22:525-526.
Translations: Satoshi Kato, DDS
Definition (定義)
“Temporomandibular Disorders (TMD)”(顎関節症)とは、咀嚼筋、顎関節(TMJ)と関係構造体またはその両方に関係する複数の臨床的問題を含めた一つの集合的用語である。1 TMDは咀嚼筋障害、円板変異disk displacement そして多くの共通症状を持つ炎症性の顎関節障害の関連した複合名である。よって、TMDは一つの病気ではなく咀嚼系障害に関連した集合体を記載する用語であると言える。
Etiology (病因)
咬合はかつてTMDの主要な(primary)病因因子とみなされた。よって補綴医は、咬合を理想的にすることがTMDの治療になると教えられた。しかしながら、最近の科学的根拠によれば、咬合の役割がTMDの病因因子として小さな役割しか果たしていないのではないかということが示唆されている。今までのところ、咬合因子はTMDの原因ではなく、その結果であろう。Obrez and Stohler2 は咬筋への生理的食塩水注射による顎の痛みはゴシックアーチのエイペックスを変位させ、さらに咬合接触の変化を引き起こすことを証明した。咬合変化は痛みを誘発せずに痛みが咬合に変化をもたらすのである。もし因果関係が存在するとすれば原因が結果に先行すべきであろう。しかしながら、この実験において、咬合変化は痛みに先行しなかった。2 たとえ臨床家が顎に痛みを訴える患者の咬合異常を診つけても、これは、痛みの原因ではなく痛みの後遺症(sequelae)であろう。
さらに原因と結果の関係を証明する付加的判定基準(criteria)があり、そのひとつが用量反応関係* dose-response relationshipである。TMDの深刻さとその発現頻度と後退接触位から咬頭勘合位へのスライドの量との間の相関関係は患者、非患者双方のおいて有意に認められなかった。さらに、TMDの深刻さとその発現頻度と垂直的水平的オーバーラップの量との有意な相関のいずれも報告されていない。よって、咬合とTMDの用量反応関係 dose-response relationshipは証明されていない。“関連の強さ”strength of the association*もまた原因の判定基準である。TMD患者の咬合特性と無症状のコントロールグループとの間の多重ロジスティック回帰分析*multiple logistic regression analysisによって、咬合因子の関与は症例の4.8%から27.1%以下であると説明された。3 従って、咬合因子とTMDの結びつきは弱い。他に因果関係証明に必要なことは関連の一貫性consistency of the associationである。言い換えれば、異なる研究デザインでも研究結果は一致すべきである。しかしながら、咬合因子とTMDとの間の関係を扱った論文での結果はいろいろである。最後に、関連は病因学的に理にかなうものでなければならない。言い換えれば、関連は生物学的に妥当plausibleであるべきである。TMDは男性より女性に多い。しかしながら不正咬合の発現頻度に性差はない。咬合干渉はTMD患者だけではなく健康な被験者にもまた観られる。多くのTMD患者に不正咬合はない。よって、咬合とTMDの関連に生物学的妥当性は見当たらない。
以上により、咬合とTMDの因果関係は証明されていないと結論付けられる。
Management (治療)
TMDへの咬合因子の因果関係が不明確であることにより、TMDの予防やTMDの初期治療のための積極的非可逆的ないかなる介入も避けるべきである。しかし、ある補綴医グループによっては、円板変位や関節音を含むTMD治療のために咬合調整や広範囲な修復治療が行われてきた。
関節鏡手術arthoscopic surgeryは内部不正internal derangementの治療にしばしば行われてきた。関節鏡的溶解lysisと円板前方転位の洗浄した術後の円板の位置が評価された。92%の患者に著しい痛みの減少と下顎機能の修復が観られるものの、92%の患者もまた持続する前方転位をもっていた。4 内部不正の治療のための咬合装置療法後の円板位置に関する研究は、90%の成功した関節にも円板転位が継続して診られた。5 咬合装置を伴う臨床的改善はかならずしも円板の解剖的整復anatomical reductionを意味するものではない。さらに、整復を伴わない円板転位の自然経過に関する研究において、未治療患者の43%が2.5年以内に症状がなくなり、32%が改善し、そして25%の人に症状が継続した。6
多くの筋肉骨格状態のように、TMDの症状やサインは時系列で一時的であり自己限定性*self-limitingである。治療のゴールを形態の正常化におくべきではなく、痛みの減少と機能の改善におくべきである。従って、主要な治療は積極的非可逆的なものではなく、代わりに保守的で後戻り可能であるべきであり、さらに治療の焦点を症状の制御controlと抑制reduction, 原因因子contributing factor そして病的後遺症pathologic sequelaeにあてるべきである。
自己限定性*self-limiting:病気の経過が患者に限られて一定していること
*用量反応関係 dose-response relationship
典拠: NEW薬理学3版 [77, p.6] ,典拠: PharmacologyNMS [27, p.9] ,典拠: 標準薬理学4版 [85, p.6] 概念 横軸に薬剤の用量を取り、縦軸に生体の反応の指標をとって容量と反応の関係を図示したもの。
薬物の効力
最大効力 efficacy := 薬物の最大効力
用量効力 potency := 投与量当たりの薬物の効率
用量反応曲線
Quantal dose-response curve
Graded dose-response curve
Log dose-response curve
*多重ロジスティック回帰分析
多重ロジスティック回帰分析はアウトカムが二分変数なので,疾患がある/ない,病態がある/ない,治療が有効/無効などに関係している複数の因子を見つけ出したり,またそれら複数の因子によって,アウトカムがどちらの値をとるのかを予知したりに広く使われている。また,生存/死亡がアウトカムの場合,それが,独立変数つまり危険因子や予知因子の測定後ある一定の期間で生起する事象で,フォローアップする必要がない場合にはロジスティック回帰分析を用いる。つまり,後で解説する打ちきり例Censored caseがない場合には,この方法を用いることが出来る。
*関連の強さstrength of the association
the degree of relationship between a causal factor and the occurrence of a disease, usually expressed in terms of a relative risk ratio. (原因因子と病気発現との関係度合い、相対的危険比率という用語で表現されている)
Mosby's Medical Dictionary, 8th edition. © 2009, Elsevier.
References (参考文献)
- de leeuw R (ed). Orofacial pain: Guidelines for assessment, diagnois, and management, ed 4. Chicago; Quintessence, 2008.
- Obrez A, Stohler CS. Jaw muscle pain and its effect on gothic arch tracing. J Prosthet Dent 1996;75:393-398.
- Pullinger AG, Seligman DA. Quantification and validation of predictive values of occlusal variables in temporomandibular disorders using a multifactorial analysis. J Prosthet Dent. 2000;83:66-75.
- Moses JJ, Sartoris D, Glass R, Tanaka T, Poker I. The effect of arthroscopic surgical lysis and lavage of the superior joint space on TMJ disc position and mobility. J Oral Maxillofac Surg. 1989;47:674-678.
- Kirk WS Jr. Magnetic resonance imaging and tomographic evaluation of occlusal appliance treatment for advanced internal derangement of the temporomandibular joint. J Oral Maxillofac Surg. 1991;49:9-12.
- Kurita K, Westesson PL, Yuasa H, Toyama M, Machida J, Ogi N. Natural course of untreated symptomatic temporomandibular joint disc displacement without reduction. J Dent Res. 1998;77:361-365.
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